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大阪高等裁判所 昭和38年(ラ)143号 決定 1965年5月11日

抗告人 寺口喜太郎

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

理由

一、本件抗告の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。

二、当裁判所の判断

一件記録によると、次の事実を認めることができる。

本件競売申立債権者である株式会社大正相互銀行は債務者である抗告人に対する本件債務名義(神戸地方法務局所属公証人松本左右一作成第六五、一二一号抵当権設定無尽債務弁済契約公正証書)に基づいて、原裁判所に対し抗告人所有の本件不動産につき強制競売の申立てをなし(同裁判所昭和三八年(ヌ)第一八号)、競売手続が進められた結果昭和三八年七月三日原競落許可決定の言渡しがなされた。一方、抗告人は、右大正相互銀行を被告として神戸地方裁判所に対し、右債務名義に基づく強制執行はこれを許さない旨の請求異議の訴を提起し(同裁判所昭和三八年(ワ)第六一七号)、昭和四〇年二月一六日抗告人勝訴の判決言渡しを受け、右判決は同年三月五日の経過により確定した。なお、抗告人は同年三月一二日その判決正本を当裁判所に提出した。

ところで、かかる強制執行を許さない旨の確定判決の正本(民訴法五五〇条一号)は、ほんらい執行機関たる原裁判所に提出さるべきものであるけれども、すでに競落許可決定に対し抗告があり、抗告裁判所が競落の許否を審査しなければならない場合においては、必ずしもこれを原裁判所に提出すべきであると解しなければならないわけでもないし、実際上も記録が抗告裁判所に存在する場合の手続上の便宜を考えるとき、抗告裁判所にこれが提出された場合にも、原裁判所に提出されたのと同様の取扱いをなすのが相当である。そうすると、前記のとおり抗告裁判所たる当裁判所に前記判決正本が提出された以上(たとえ、それが原競落許可決定の後であるにしても、右事情は当然斟酌されなければならない。)、本件強制競売手続は許されないものというべきである。したがつて、民訴法六八一条二項、六七二条一号により原競落許可決定は取消しを免れず、本件抗告は理由あるものというべきである。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 金田宇佐夫 日高敏夫 山田忠治)

別紙

抗告の趣旨

原決定を取消し、競落を許さない旨の御裁判を求める。

抗告の理由

民事訴訟法第六七二条第一号に該当する理由があるにもかゝわらず競落許可決定をしたので抗告の趣旨記載の裁判を求める。即ち、

債務名義となつている神戸地方法務局所属公証人松本左右一作成第六万五千壱百弐拾壱号抵当権設定無尽債務弁済契約公正証書に対し、抗告人は、原告として株式会社大正相互銀行を被告とし、神戸地方裁判所昭和三八年(ワ)第六一七号請求異議の訴を提起していたところ、神戸地方裁判所は、昭和四〇年二月一六日、「被告の原告に対する神戸地方法務局所属公証人松本左右一作成にかかる第六五、一二一号抵当権設定無尽債務弁済契約公正証書及び第六六一三二号抵当権設定無尽債務弁済契約公正証書にもとずく各強制執行は、これを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の原告(抗告人)全部勝訴の判決を言渡し、この判決は昭和四〇年三月五日の経過により確定した。よつて、抗告人は抗告の趣旨記載の裁判を求める次第である。

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